「原子力発電所耐震設計技術指針 重大事故等対処施設編(基本方針)」は,原子力発電所の重大事故等対処施設の耐震設計に関する事項のうち,基本的な考え方に関する事項をまとめたものである。本指針(JEAG4601-2015[2016年追補版])と「原子力発電所耐震設計技術指針」(JEAG4601-2015),及び「原子力発電所耐震設計技術規程」(JEAC4601-2015)は一体で運用されるものである。
1. 基本事項
1.1 適用
1.1 適用範囲
1.2 関連する規格等
1.3 用語の定義
1.4 略称
1.5 単位系
2. 耐震設計の基本的考え方
2.1 耐震設計の目的
2.2 基本的考え方
2.3 耐震設計に適用する地震動
3. 設備分類と耐震設計要求事項
3.1 重大事故等対処施設の設備分類
3.2 重大事故等対処施設の耐震設計
3.3 プラントの運転状態と供用状態
4. 設計用地震力
4.1 設計用地震力
4.2 水平地震力と鉛直地震力の組合せ
4.3 設計用地震力の設定方法
5. 荷重の組合せ
6.許容限界
6.1 重大事故等対処施設に対する許容限界の考え方
6.2 許容限界の設定
7.重大事故等対処施設の耐震評価法
7.1 耐震評価法の考え方
7.2 弾塑性解析の導入とその留意点
あとがき
参考資料
2011年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震とそれに続く巨大津波は,原子力発電所において重大事故に対する備えが不十分であったことを示す結果となった。重大事故は,従来工学的には現実に起こるとは考えられないほど発生の可能性は小さいとされてきた。このため,重大事故対策は,安全規制の対象ではなく,原子炉設置者(事業者)の自主的な取組みとして整備が進められてきた。3月11日の巨大津波に端を発した福島第一原子力発電所の重大事故を受けて,今まで事業者が自主的に行ってきた重大事故対策を規制対象とすることが法律「実用発電用原子炉及びその附属施設の位置,構造及び設備の基準に関する規則」(平成25年6月19日 原子力規制委員会決定)に規定された。また,すでに許可を得た原子力施設に対しても適合を義務付けられることになった。
この法律に基づく規制体系の見直しに伴い,重大事故等対処施設に対して耐震設計が要求されるようになった。
上記の法律の制定を受けて,耐震設計分科会では,重大事故等対処施設の耐震設計についての基本的な考え方を定めるため,原子力発電所耐震設計技術指針 重大事故等対処施設編(基本方針)JEAG4601-2015[2016年追補版]を制定した。
本指針は,プラントの状態が設計基準事故を超えた重大事故等の状態に陥ったことを想定し,重大な放射性物質の放出を抑制することを目的に設置される重大事故等対処施設が,地震によりその機能を喪失することがないように設計するために必要な措置について記述している。
本指針を作成するに当たり,外部事象である地震の取扱いについて以下のように考えた。
・ 外部事象である地震はプラントの状態に関係なく発生するものである。一方,プラント状態は地震により引き起こされる事象及び地震に関係なくプラントの内部事象により決まる事象があることを考慮して,プラント状態と地震の組合せを行う。
・ 重大事故時の荷重と組み合わせる地震力(荷重)の基となる地震動は,重大事故等の発生確率,その継続時間及び当該サイトにおける地震動の発生確率を踏まえて適切なものを設定する。
・ 重大事故時の荷重と地震力との組合せに対する評価では,新たに運転状態V,及びそれに対応する地震時の供用状態Eを定義し,許容限界を設定する。
重大事故等対処施設に対する設計や規制側の審査は徐々に実績が重ねられているところであるが,今後の設計や審査に伴い種々の検討課題が挙げられることが予想されることから,本指針では当面,基本方針(基本的な考え方)について述べることとした。
地震ハザード評価における不確かさを考慮すれば基準地震動を超える地震動の可能性を否定できない。この設計・評価に内在するリスクに対しては, 対象プラントのリスク評価を行い,リスクを低減するための対処能力の確認は確率論を用いた安全評価の中で実施されるものと考える。これらの評価については本指針の対象外としたものの,対象設備の有効性を確認するための重要な評価であり,本指針で述べている決定論的に決めた施設の安全性の確認のために注視していくこととする。さらに,これらリスク評価に基づいた設計改善とリスク低減効果の定量評価に向けた取組みも必要な課題と認識している。
本指針は重大事故等対処施設の耐震設計を対象としているが,基本的な考え方は設計基準対象施設に適用されるJEAC4601を基としており,本来JEAC4601に含めるものであると考える。今後,内部事象及び外部事象に対する考え方,深層防護の考え方を整理して本指針との整合性を図った後,本指針をJEAC4601に組み入れていく方針である。
また,重大事故等対処施設の設計や規制に伴う課題が顕在化された場合は,随時本指針を改定していくこととする。
最後に,原子力規格委員会,耐震設計分科会及び各検討会等審議に参加してご協力いただいた関係委員の方々及び関係諸機関の方々,そして特にご尽力いただいた原案作成者,検討会幹事の方々に厚くお礼申し上げる。
平成29年12月
原子力規格委員会
耐震設計分科会
分科会長 原 文雄