発電用原子力設備において,当該設備が落雷の影響を受けることによって,発電用原子力設備の安全機能が損なわれることのないよう,雷直撃の防止対策,雷サージ抑制対策,雷サージの影響措置対策について規定している。
1. 総 則
1.1 目 的
1.2 適 用 範 囲
1.3 関連法規, 規格
1.4 用 語 の 定 義
2. 雷 直 撃 の 防 止
2.1 電力設備の避雷設備
2.2 建築物等の避雷設備
2.2.1 避雷設備の設計
2.2.2 一般建築物の避雷設備
2.2.3 危険物施設の避雷設備
2.3 避雷設備の受雷部
2.4 避雷設備の避雷導線
2.5 避雷設備の接地極
2.6 配 置 計 画
3. 雷サージの抑制策
3.1 電力設備に侵入する雷サージの抑制
3.1.1 送電設備から侵入する雷サージの抑制
3.1.2 主発電機,所内高圧電源設備へ侵入する雷サージの抑制
3.1.3 所内低圧電源設備へ侵入する雷サージの抑制
3.2 計測制御設備へ侵入する雷サージの抑制
3.2.1 接 地 設 計
3.2.1.1 接地抵抗目標値
3.2.1.2 接 地 方 式
3.2.1.3 接地系の連接
3.2.1.4 計測制御設備の接地
3.2.2 配 線 設 計
3.2.2.1 配 線 方 法
3.2.2.2 ケーブル種類
3.3 火花放電の防止
4. 雷サージの影響阻止
4.1 雷インパルス絶縁耐力
4.2 雷サージ侵入の阻止
解 説
原子力発電所の安全性を確保するためには,原子炉施設の安全に直接係る機器及び回路について,雷に対する適切な防護措置を施しておく必要がありますが,1983 年当時,我が国には原子力発電所の耐雷設計について具体的に言及した規程及び指針類がありませんでした。そのため,日本電気協会は通商産業省(現経済産業省)から依頼を受けて,原子力専門委員会(現原子力規格委員会)の下部組織である安全設計分科会の下に耐雷設計検討会を設置し,原子力発電所の雷に対する防護の指針整備に関して検討を行いました。
その結果,建築基準法施行令及び危険物の規制に関する政令の要求に基づき一般建築物や危険物施設で実施されている避雷設備の設置,及び電気設備の技術基準を定める通商産業省令で求められる接地の実施や避雷器の設置等を組み合わせることが有効であると考え,これらを原子力発電所において設計上考慮すべき事項及び推奨される方法としてとりまとめ,1986年 1 月に「原子力発電所の耐雷指針」を制定しました。その結果,建築基準法施行令及び危険物の規制に関する政令の要求に基づき一般建築物や危険物施設で実施されている避雷設備の設置,及び電気設備の技術基準を定める通商産業省令で求められる接地の実施や避雷器の設置等を組み合わせることが有効であると考え,これらを原子力発電所において設計上考慮すべき事項及び推奨される方法としてとりまとめ,1986年1月に「原子力発電所の耐雷指針」を制定しました。
その後,1998年5月の第1回改定では,原子炉施設の安全に直接係る機器及び回路について,「発電用軽水型原子炉施設の安全機能の重要度分類に関する審査指針」(平成2年8月30日原子力安全委員会決定)に基づいて分類し,必要な設計を行う等の修正を行い,またサージ侵入を抑制するのに効果がある光ファイバケーブルやラインフィルタの使用を最新知見として追記しました。
さらに,2007年12月の第2回改定では,本指針が引用する JIS A 4201-1992「建築物等の避雷設備(避雷針)」の JIS A 4201:2003「建築物等の雷保護」への改定,欧州の原子力プラントで採用されている IEC 61024-1「Protection of structures against lightning」や IEC 61662「Assessment of the risk of damage due to lightning」,米国の原子力プラントで採用されている IEEE 等の避雷設備規格を反映し,雷遮蔽設計として国内で従来採用されていた保護角法に加え,回転球体法による設計方法を記載しました。また,屋外制御ケーブルから制御回路内に雷サージが侵入し,リレーを誤動作させたトラブル事象を踏まえ,制御ケーブルへのシールドケーブルの使用や両端接地が雷サージ抑制対策として有効であることを追記する等の修正を行っております。
今回の改定では,東京電力(株)福島第一原子力発電所事故を受けて制定された「実用発電用原子炉及びその附属施設の位置、構造及び設備の基準に関する規則」(平成25年原子力規制委員会規則第 5 号),2015年8月2日に発生した青森県六ケ所村の日本原燃(株)再処理施設における安全上重要な機器の落雷による故障,並びに最新の国際規格IEC 62305-2:2010「Protection against lightning – Part2: Risk management」に基づく雷保護レベルの選定を踏まえ,原子力発電所の耐雷設計において考慮すべき事項を反映しました。
具体的には,本指針の適用範囲に原子力発電所以外の原子力関連施設を追加するとともに,雷に対する防護措置の対象に重大事故等対処設備を追加しました。その上で,原子炉施設の安全に直接係る機器及び回路,並びに重大事故等対処設備を収納する建築物の雷保護レベルをⅠとし,それ以外の建築物(危険物施設を除く)については,IEC 62305-2:2010 の計算結果により雷保護レベルをⅣとすることを明確にしました。また,日本原燃(株)再処理施設のトラブル事象を踏まえ,屋内設置の計測制御設備であっても屋外ケーブルを有する計装回路については雷サージの侵入に対する考慮が必要であることを記載しました。その他全般的に,実設計における本指針の使用を念頭に設計要求事項並びに対策内容の記載を具体化しました。
今後も継続的に耐雷設計に関する国内外の情報収集に努め,本指針に適切に反映していく所存でございます。
本指針の改定にあたって,電力会社,メーカ並びに委員の方々に絶大なご助力を賜りました。ここに関係各位に深く感謝いたします。
2020年10月
原子力規格委員会
安全設計分科会
分科会長 古田一雄