ディジタル計算機を適用した原子力発電所の安全保護系に対し,その性能及び信頼度の面から必要とされる事項について規定している。本文では,ディジタル安全保護系の機能と設計に関する要求事項とディジタル安全保護系のソフトウェアに対する品質保証上の要求を,解説では要求事項を理解する為の具体的事例を示している。
1.目 的
2.適用範囲
3.用語の定義
3.1 ディジタル計算機
3.2 安全保護系
3.3 V&V
3.4 応答時間
3.5 外部ネットワーク
4.ディジタル安全保護系に対する要求事項
4.1 過渡時及び地震時の機能
4.2 事故時の機能
4.3 精度及び応答時間
4.4 多重性
4.5 独立性
4.6 計測制御系との分離
4.7 故障時の機能
4.8 試験可能性
4.9 外的要因
4.9.1 環境条件
4.9.2 耐震性
4.9.3 その他の外的要因
4.9.4 設計の確証
4.10 非常用電源の使用
4.11 設定値の変更
4.12 入力変数の選定
4.13 保護動作の完全性
4.14 手動操作
4.15 動作及びバイパスの表示
4.16 自己診断機能
4.17 ソフトウェアの管理外の変更の防止
4.18 不正アクセス行為等の被害の防止
4.19 品質保証
4.19.1 ソフトウェアライフサイクル
4.19.2 ソフトウェア構成管理
4.19.3 V&V
5.留意事項
[解 説]
(解説−1 〜24)
原子力発電所の安全保護系は,原子炉停止系を緊急作動するための信号回路と工学的安全施設等の作動を行わせるための信号回路とから構成されています。これは,原子炉施設の異常状態を検知し,必要な場合に,各信号回路を直接動作させる設備で,その設計に関する要求事項は,「発電用軽水型原子炉施設に関する安全設計審査指針」(平成 2 年 8 月30 日原子力安全委員会決定),「実用発電用原子炉及びその付属施設の位置、構造及び設備の基準に関する規則」(平成25 年6 月28 日原子力規制委員会規則第5 号)及び「実用発電用原子炉及びその附属施設の技術基準に関する規則」(平成25 年6 月28 日原子力規制委員会規則第 6 号)に示されております。
原子力発電所においては,1980 年代頃から常用系の計測制御システムを中心にディジタル計算機が適用されるようになり,その確かな運転実績を踏まえながら,段階的にその適用範囲を拡大し,1990 年代頃から安全保護系の計測制御システムにも適用されるようになってきました。特に,ディジタル計算機を適用した安全保護系(以下,ディジタル安全保護系)を採用した新設プラントが運転を開始すると共に,制御装置更新に合わせてディジタル安全保護系が採用されてきたことから,ディジタル安全保護系は安全保護系の計測制御システムにおける主流になりつつあります。
このような背景の中,(一社)日本電気協会「原子力規格委員会」では,1989 年にディジタル安全保護系のソフトウェアの検証及び妥当性確認の手法として,JEAG4609 「安全保護系へのディジタル計算機の適用に関する指針」を制定し,さらに 2008 年には,新たにディジタル安全保護系の性能と品質保証活動に関する規程を JEAC4620「安全保護系へのディジタル計算機の適用に関する規程」として定め,ディジタル安全保護系のソフ
トウェアの検証及び妥当性確認に対する基本事項としてJEAG4609「ディジタル安全保護系の検証及び妥当性に関する指針」を改定しています。
このたび,2011 年に発行された原子力安全・保安院及び独立行政法人原子力安全基盤機構による JEAC4620-2008/JEAG4609-2008 に対する技術評価書,及び 2013 年に施行された前記の新規制基準を踏まえて,ディジタル安全保護系に関する最新の規制要求事項を確認すると共に,IEEE 規格,IEC 規格等の最新の国内外における関連規格,これまでの運転経験,トラブル情報から得られる知見について調査を行い,その結果を踏まえて,本規程及び本指針を改定することと致しました。
JEAC4620については,過渡時,事故時及び地震時の機能や環境条件,計測制御系との分離等に関する要求事項を明確化すると共に,ディジタル計算機を適用していない従来型の安全保護系に関する扱いの追加,多様性のある設備の設置に関する記載の適正化等を行っております。また,JEAG4609 については,JEAC4111/JEAG4121 に基づく品質保証活動と V&V の関係や JEAG4609 の位置づけを明確化するために,新たに「0.序論」を追加し,指針の適用や構成を明記すると共に,V&V の実施体制に関する内容の明確化等を行っております。
ディジタル制御技術については,その進歩が目覚ましく,今後もソフトウェア共通要因故障対策やセキュリティ対策等の課題が考えられますが,技術動向を注視しつつ,引き続き本規程及び本指針に関する検討を進めてまいります。
本規程及び本指針の改定に当たって,関係官庁,電力会社,メーカ並びに委員の方々に絶大なご助力を賜りました。ここに関係各位に深く感謝いたします。
2020年6月
原子力規格委員会
安全設計分科会
分科会長 古田一雄