「原子力発電所火山影響評価技術指針」(JEAG4625)は,原子力発電所の火山現象に対する安全性を明示的に示すことを目的として2009年に制定したが,2014年に,詳細設計における火山現象に対する具体的な対応手段について新たに第3章を設けて,国内外の規制等の内容を踏まえて必要な事項を反映し改定を行っている。
今回の改定では,2014年版で将来の改定時に反映するとしていた重大事故等対処施設における火山現象に対する具体的な対応手段について,新たに第4章を設けて,規制基準の内容を踏まえて必要な事項を追加した。
第1章 基本事項
1.1 適用範囲
1.2 用語の定義
1.3 原子力発電所への影響評価の基本方針
第2章 火山及び火山現象の調査と評価
2.1 調査
2.1.1 調査対象及び調査範囲
2.1.1.1 調査対象の火山
2.1.1.2 調査対象の火山現象
2.1.1.3 調査対象範囲
2.1.2 調査手法
2.1.3 整理項目
2.1.4 表示の様式
2.2 考慮すべき火山及び火山現象の評価
2.2.1 原子力発電所の安全性への影響を考慮する火山及び火山現象
2.2.1.1 活動の可能性を考慮する火山
2.2.1.2 原子力発電所の安全性への影響を考慮する火山現象
2.2.1.3 火山活動のモニタリング
2.2.2 詳細設計段階において施設への影響を評価するための検討項目
第3章 機械・電気設備等の影響評価
3.1 詳細設計段階で考慮する火山現象
3.2 検討条件
3.3 評価対象範囲及び評価対象設備の抽出
3.3.1 評価対象範囲
3.3.2 評価対象設備の抽出
3.4 設備対策設計の実施
3.4.1 屋外タンク
3.4.2 取水設備及び原子炉補機冷却海水系
3.4.2.1 取水設備
3.4.2.2 原子炉補機冷却海水系
3.4.2.2.1 原子炉補機冷却海水ポンプ
3.4.2.2.2 原子炉補機冷却系熱交換器
3.4.3 建屋換気空調設備
3.4.4 排気筒
3.4.5 非常用ディーゼル発電機及び燃料移送ポンプ
3.4.5.1 非常用ディーゼル発電機
3.4.5.2 燃料移送ポンプ
3.4.6 主蒸気逃がし弁(PWR)
3.4.7 建屋
3.5 運転員及び作業員の安全確保
3.6 火山現象の間接的影響への配慮
第4章 重大事故等対処施設の影響評価
4.1 詳細設計段階で考慮すべき火山現象
4.2 評価対象となる重大事故等対処施設の抽出
4.3 設備対策設計の実施
4.3.1 代替注水設備
4.3.1.1 代替注水設備(ポンプ)
4.3.1.2 代替注水設備(タンク等)
4.3.2 代替除熱設備
4.3.2.1 代替除熱設備(フィルタベントシステム)
4.3.2.2 代替除熱設備(代替熱交換器システム)
4.3.3 可搬型設備
4.3.3.1 電源車,可搬型注水設備,移動式代替熱交換器設備,燃料補給用タンクローリー
附属書2.1 火山影響評価の流れ(その1)
附属書2.2 調査対象とする火山現象と敷地との位置関係
附属書2.3 火山活動のモニタリング
附属書3.1 火山影響評価の流れ(その2)
附属書3.2 火山灰評価例
附属書3.3 プラント停止に関連する設備の抽出例
附属書3.4 火山評価対象設備例
附属書3.5 タンクの座屈荷重
附属書3.6 主排気筒に対する火山灰影響評価例
附属書3.7 火山灰・火山ガス環境下での作業時の装備品例
参考文献
参考資料
我が国には多くの火山が存在し,歴史的に火山による災害も多く発生している。我が国の原子力発電所は,これまでも立地審査指針等に基づき活動的な火山との離隔をとる等の配慮をして設置されているが,原子力発電所を対象として火山に特化した指針類が制定されていなかった。このため,(社団法人[当時,以下(社)])日本電気協会の耐震設計分科会では,火山国に立地する原子力発電所の火山現象に対する安全性を明示的に示すことを目的として,2009年に本指針を制定した。
2009年版の指針は,原子力発電所の立地及び設計上の考慮条件策定段階において考慮する火山及び火山現象が原子力発電所の安全性に与える影響の有無の評価,及びそのために必要な調査検討を示すものであったが,2014年に,詳細設計における火山現象に対する具体的な対応手段について,新たに第3章を設けて,原子力規制委員会「実用発電用原子炉及びその附属施設の位置、構造及び設備の基準に関する規則、同解釈」(2013年6月19日決定)やIAEA
Specific Safety Guide No. SSG-21, Volcanic Hazards in Site Evaluation
for Nuclear Installations (2012) などの国内外の規制等の内容を踏まえて必要な事項について反映し改定を行っている。
今回2015年の改定では,
2014年版において将来の改定時に反映するとしていた重大事故等対処施設における火山現象に対する具体的な対応手段について,新たに第4章を設けて,必要な事項について追加した。また,火山現象により発電所を停止した後の,施設の試験や点検における留意事項について参考資料に整理した。
火山現象には,自然現象特有の不確かさがあり,特にカルデラ噴火と呼ばれる超巨大噴火の形成活動は,その発生頻度が低いため未解明な部分が多い。火山現象の不確かさを反映した評価のためには,確率論的なリスク評価に基づく評価を行うことが考えられるが,火山現象は非常に多様な現象であり,現時点では,適用が可能な確率論的手法が確立されているわけではない。このため,本指針においては,現時点における火山学に関する最新知見に基づき,前述のような火山現象の不確かさを踏まえた上で判断することを基本としている。
ところで,大地震の発生予測は未だ実現に至っていないのに対し,観測網が整備された幾つかの火山においては,噴火の先行現象の検知とそれに基づく噴火開始前の情報発信が可能となってきている。また,火山現象は,他の自然現象に比べ地質学的な痕跡が保存されやすいという特徴があり,これを利用して過去に起こった噴火の規模や形態を推定し,地層に存在する火山性堆積物の由来を特定することが可能である。
近年の火山研究の進展により個々の火山の噴火シナリオに基づく噴火予測及び災害予測についてある程度の確度をもって実施できるようになった一方で,観測記録や歴史的経験が乏しい火山現象に対する予測の一般化,火山現象を支配する物理法則の一般化及びそれを通じた噴火に伴う各種火山現象の推移の包括的な予測のためには一層の知見拡充が待たれている。しかしながら,カルデラ形成のような,稀な事象の予測については,未だ十分な知見が得られていないため,今回の改定の範囲外とした。
以上のような火山研究の状況下において,国の火山研究の今後の進展が予想され,火山に関する技術規格の国際的動向も注目されるとき,火山現象に関する民間規格を策定する本分科会・火山検討会の活動を継続して行うことが重要である。
本改定版は,現時点で得られている知見について最大限反映を図ったものであるが,今後も最新の知見に基づいて適宜改定を行っていく方針である。
本技術指針の制定に当たって検討及び審議に参加してご協力頂いた関係各委員の方々及び関係諸機関の方々,そして特にご尽力頂いた原案作成者,火山検討会主査・幹事の方々に厚くお礼申し上げる。
平成27年7月
原子力規格委員会
耐震設計分科会
分科会長 原 文雄