本規程は原子炉施設の耐津波設計に適用することを目的とし,「実用発電用原子炉及びその附属施設の位置,構造及び設備の基準に関する規則(原子力規制委員会)」及びその解釈の要求に基づき設計上想定する基準津波に対する設計基準対象施設の設計手法を規定した。また,本規程に定める設計手法は,原子炉施設の津波に対する防護方策であり,重大事故等対処施設の設計にも準用できることとした。
さらに,設計上想定する津波を上回る超過津波による残余のリスクを踏まえ,重大事故発生防止及び重大事故発生時の影響緩和の観点から,超過津波に対して原子炉施設の安全確保を図る際の推奨事項も示した。
第1章 基本事項
1.1 適用
1.1.1 適用範囲
1.1.2 改定
1.1.3 適用する年版
1.1.4 関連する規格等
1.2 耐津波設計の基本方針
1.2.1 耐津波設計の目的
1.2.2 基本的考え方
1.2.3 耐津波設計に適用する津波
1.2.4 耐津波設計上の重要度分類
1.2.4.1 機能上の分類
1.2.4.2 耐津波クラス別施設
1.2.4.3 耐津波重要度分類の適用
1.2.5 施設の耐津波設計
1.2.5.1 津波の到達,流入に対する防護の基本方針
1.2.5.2 津波に対する取水性の維持に係わる設計方針
1.2.5.3 津波随伴事象に対する設計方針
1.2.5.4 耐津波設計で考慮する事象及び運転状態
1.2.5.5 クラス別施設の許容状態
1.3 用語
1.4 単位系
附属書(参考)1.1 超過津波対策への推奨事項
附属書(参考)1.2 各設備の具体的な耐津波重要度分類
第2章 耐津波設計の手順
2.1 耐津波Sクラス施設の設計手順
2.2 耐津波Bクラス施設の設計手順
第3章 津波による影響
3.1 基本事項
3.1.1 適用範囲
3.1.2 基本的な考え方
3.1.3 準用する基準類
3.2 津波の伝播・遡上
3.2.1 津波の伝播・遡上の基本的考え方
3.2.2 基本方程式と計算スキーム
3.2.3 数値シミュレーションの実施
3.2.3.1 解析事項
3.2.3.2 数値シミュレーション領域の設定
3.2.3.3 計算格子間隔
3.2.3.4 地形データの作成
3.2.3.5 構造物データの作成
3.2.3.6 境界条件の設定
3.2.3.7 諸条件の設定
3.3 津波波力
3.3.1 津波波力の基本的考え方
3.3.2 防波堤等の海中構造物に作用する津波波力
3.3.3 陸上構造物・機器に作用する津波波力
3.4 津波漂流物
3.4.1 津波漂流物対応の基本的考え方
3.4.2 津波漂流物諸元の想定方法
3.4.3 津波漂流物衝突力の算定
3.5 砂移動
3.5.1 津波による砂移動
3.5.2 津波による洗掘
附属書(規定)3.1 近地津波伝播を対象とした基礎方程式と計算スキーム
附属書(規定)3.2 取放水設備を対象とした基礎方程式
附属書(参考)3.1 三次元流体解析の適用
附属書(参考)3.2 海中構造物(傾斜型)に作用する津波波力の評価式
附属書(参考)3.3 陸上構造物・機器に作用する津波波力の評価式
附属書(参考)3.4 漂流物化する可能性評価の考え方
附属書(参考)3.5 漂流物の衝突力評価式例
附属書(参考)3.6 砂移動の解析手法
参考文献
第4章 津波防護施設・浸水防止設備の耐津波設計
4.1 基本事項
4.1.1 適用範囲
4.1.2 準用する基準類
4.2 津波防護施設・浸水防止設備の耐津波設計の基本方針
4.2.1 津波時に確保すべき安全状態
4.2.2 津波により想定される事象
4.2.2.1 浸水により想定される事象
4.2.2.2 津波波力及び浮力により想定される事象
4.2.2.3 漂流物により想定される事象
4.2.2.4 洗掘により想定される事象
4.2.3 津波防護施設・浸水防止設備に対する機能要求
4.3 津波防護施設・浸水防止設備の荷重条件
4.3.1 津波に起因する荷重
4.3.1.1 浸水深
4.3.1.2 津波波力及び浮力
4.3.1.3 漂流物衝突力
4.3.2 荷重の組合せ
4.3.2.1 基本的考え方
4.3.2.2 荷重の組合せ
4.4 個別施設の設計基準
4.4.1 津波防護施設(防潮堤等)の耐津波設計
4.4.2 浸水防止設備(水密扉等)の耐津波設計
4.4.2.1 敷地の浸水防止設備(取放水路蓋等)
4.4.2.2 建屋水密バウンダリとなる設備(水密扉,配管貫通部等)
4.4.2.3 建屋内水密バウンダリとなる設備(水密扉,配管貫通部等)
4.4.3 その他の施設の耐津波設計
4.4.3.1 取放水路の耐津波設計
4.4.3.2 浸水防止設備が取り付く建物・構築物の耐津波設計
4.4.4 使用材料及び材料定数
4.4.5 許容限界
4.5 浸水量評価
附属書(参考)4.1 津波防護施設の設計方針
第5章 機器・電気設備の耐津波設計
5.1 基本事項
5.1.1 適用範囲
5.1.2 準用する基準類
5.2 機器・電気設備の耐津波設計の基本方針
5.2.1 津波時に確保すべき安全状態
5.2.2 津波により想定される事象
5.2.2.1 浸水により想定される事象
5.2.2.2 津波波力及び浮力により想定される事象
5.2.2.3 漂流物により想定される事象
5.2.2.4 敷地内の洗掘により想定される事象
5.2.3 設備に対する機能要求
5.3 機器・電気設備の荷重条件
5.3.1 津波に起因する荷重
5.3.1.1 浸水深
5.3.1.2 津波波力及び浮力
5.3.1.3 漂流物衝突力
5.3.2 荷重の組合せと許容限界
5.3.2.1 基本的考え方
5.3.2.2 荷重の組合せ
5.3.2.2.1 津波外力を考慮する機器・配管系
5.3.2.2.2 津波外力と組み合わせる余震による地震荷重
5.3.2.2.3 津波外力と組み合わせる運転状態
5.3.2.3 許容限界
5.4 個別設備の設計基準
5.4.1 屋外設備
5.4.1.1 屋外タンクの耐津波設計
5.4.1.2 屋外配管の耐津波設計
5.4.1.3 動的機器・電気計装機器の耐津波設計
5.4.1.4 波及的影響検討設備(漂流物となることを防止する設備)
附属書(参考)5.1 個別設備の耐津波強度評価の考え方
第6章 津波による個別の事象に対する耐津波設計
6.1 適用範囲
6.2 取水性の維持に係る設計
6.2.1 水位低下に対する設計
6.2.1.1 水位低下により想定される事象及び施設の機能要求
6.2.1.2 水位条件
6.2.1.3 設計基準
6.2.2 砂移動に対する設計
6.2.2.1 砂移動により想定される事象及び施設の機能要求
6.2.2.2 取水施設の設計基準
6.2.2.3 海水ポンプの設計基準
6.3 津波随伴火災に対する設計
6.3.1 津波随伴火災に対する施設の機能要求
6.3.2 設計基準
附属書(参考)6.1 取水が継続的に維持できない場合の設計の考え方
第7章 原子炉施設の耐津波性能評価
7.1 耐津波性能評価の目的
7.2 原子炉施設全体としての耐津波性能の検証
7.3 耐津波性能評価
7.3.1 耐津波性能評価手法
7.3.2 耐津波設計への反映
附属書(参考)7.1 耐津波性能評価の例
第8章 津波検知と運転管理
8.1 津波の検知
8.1.1 津波監視設備の整備
8.1.2 津波監視設備の設計方針
8.2 運転管理
8.2.1 津波防護施設及び浸水防止設備の機能維持
8.2.2 津波検知時の運転管理
参考資料 津波被害実例集
参考1 東北地方太平洋沖地震に伴う津波被害の調査
参考2 原子炉施設の被害実例
参考2.1 福島第一原子力発電所
参考2.2 福島第二原子力発電所
参考2.3 女川原子力発電所
参考2.4 東海第二発電所
参考3 一般産業施設の被害実例
参考3.1 建物・構築物
参考3.2 機器・配管系
2011年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震とそれに伴う巨大津波が東京電力福島第一原子力発電所に襲来したことにより,同発電所では全交流電源が喪失し,それに続いて,炉心冷却機能の喪失,炉心溶融と重大事故に進展し,多量の放射性物質を外部に放出するに至った。この結果,広い範囲の多くの住民に避難を余儀なくし,多大な損害と心配・不安を与え,長期にわたり帰還困難となる区域も生じる事態となった。
この事故の直接的な原因は,設計上の想定を大きく上回る津波が襲来したことであったが,事故の経験からは,津波の規模の想定とともに,津波に対する原子炉施設の防護に関しても様々な教訓が得られている。そして,同様の事故を二度と起こしてはならないという関係者の強い共通認識のもと,得られた教訓を踏まえた,原子炉施設の津波に対する高い信頼性を持った防護手法の構築が望まれることとなった。
このような経緯を受けて,2012年7月,耐震設計分科会では津波検討会を設置して,この防護手法を定める規程として「原子力発電所耐津波設計技術規程」(以下,「本規程」という。)の策定を開始した。
原子力発電所の耐津波設計の特徴としては,津波による影響及びそれを受ける施設・設備が多種多様であること,またこれらを組み合わせた設計を考える必要があるため,関連する学術・技術分野が広範に及ぶことが挙げられる。このため本規程の策定にあたっては,個々の技術要素だけでなく,これらを取りまとめ,一つの設計体系として構築することに主眼を置いた。
また,福島第一原子力発電所の事故を契機として制定された「実用発電用原子炉及びその附属施設の位置,構造及び設備の基準を定める規則」(平成二十五年六月二十八日 原子力規制委員会)における津波防護に対する要求事項〔第五条及び第四十条(津波による損傷の防止)〕の仕様規定として本規程が活用されることを視野に入れ,同規則との整合性にも配慮を行っている。
耐津波設計に係わる技術要素については,東日本大震災を契機として研究・開発が活発化しており,現時点では発展途上の段階にあるものも多く,具体的な仕様を規定するに至っていないものがある。これらについては,本規程の「『原子力発電所耐津波設計技術規程』の構成と各章の概要及び位置づけ」を参照されたい。本規程では,それらについても最新の知見を可能な限り解説や附属書に盛り込むとともに,今後も研究・開発の進捗等に応じて,適宜,新たな知見を反映することで規程の高度化を継続して図っていく方針である。
最後に,本規程の制定にあたり,検討及び審議に参加しご協力いただいた関係各委員の方々及び関係諸機関の方々,そして特にご尽力いただいた原案作成者,検討会幹事の方々に厚くお礼申し上げる。
平成26年9月
原子力規格委員会
耐震設計分科会
分科会長 原 文雄